(1)「さわのはな」の来歴 「さわのはな」は1949年に現農水省東北農業試験場水田利用部(秋田県大曲市)で、「農林8号」を母に、「abc」を父にして交配された。 1952年、雑種第2代(F2)を育てて選び出した121株を、元山形農試尾沢試験地が配布を受け、この中から1960年に「さわのはな」を生むことになった。 (2)「さわのはな」の育成 1952年ころの尾花沢試験地の目標は、食糧不足と作柄不安から安定した良質多収品種の改良であった。だが、主任と助手、常農夫(注1)の4人で他の育成地と競争しなければならなかった。そこで、東北農試から受けた材料からいくつかの系統を選び、次世代では互いに比較し、より耐冷性やいもち耐病性(注2)が強く、良質で安定多収の系統を選ぶ方法をとった。 そこで、1960年の3月「さわのはな」と命名され、平坦地及び中山間地の中生〜中晩生として、本県奨励品種に採用された。10年もの息の長い収り組みの安堵とともに、新品種「さわのはな」ヘの期待と責任など、当時の思いは改めて壊かしく思い出される。 (3)「さわのはな」の系譜 「さわのはな」の系譜(系図)は、スーパー品種コシヒカリによく似ている(図l)。 「さわのはな」の片親となった「農林8号」(極晩生・良質)は、コシヒカリの片親である「農林22号」の母である。また、「さわのはな」の一方の親「abc」の祖母の「陸羽132号」(中生・耐冷・良質)は、山形で生まれた「亀の尾」の子である。 「さわのはな」の血縁係数(注5)は農林8号が50、陸羽132号が12.5で、コシヒカリの血縁係数は農林8号が25、陸羽132号が25で、ともに良質の系図だ。「さわのはな」とコシヒカリは、立毛(注6)の熟色と米質の良いことに引かれて選んだ点が、またよく似ている。 (4)「さわのはな」の特性 @耐冷性 穂孕期(注7)の低温や冷水掛け流しで発生した不稔歩合(注8)から判定した、「さわのはな」の耐冷性は「やや強」で、低温条件下の実りは他の品種に比べ優れている。 A耐病性 多年のいもち病検定では、葉いもち病は中程度で十分ではないが、穂いもち病は強く、根ぐされにも強いなど不良環境では他の品種に比べ、より安定している。 B耐倒伏性 「さわのはな」は耐倒伏性に弱点がある。稈(注9)は細いが柔軟で一般回場ではササニシキ、コシヒカリより倒伏は少ない。受光態勢のよい草姿と下葉の枯れ上がりの少ない稲を育てるのがポイント。登熟後期の高温や早期落水の場合は稈が傷みやすい。 C穂発芽性 コシヒカリの穂発芽性(注10)は「やや難」と判定されているが、「さわのはな」は表1のように、コシヒカリより穂発芽はしにくい、穂発芽のしにくい品種ほど夏場に強い食味の品種(注11)で注目したい。
1988〜90年の平均 (単位:kg/10a、%)
D収量性 「さわのはな」は年によるバラツキや場所によるバラツキは少なく、収量性は安定している.近年の例ではコシヒカリより収量は多いが、ササニシキ、はえぬきより少ない(表2)。 E品質 近年の米検査結果(食糧事務所)では、「さわのはな」は他の品種に比べ発芽粒や胴割粒(注12)の発生が少ない。半面他の品種に比べ乳白粒等の混入がみられ、1等米比率の地域差の大きいことが指摘されている。「さわのはな」は多収を意図した多肥栽培には不向きで、「腹8分の稲つくり」が望まれる。つまり、受光態勢がよく、倒伏や下葉の枯れ上がりが少なく、正常に実ったものが、粒張り、粒揃いよく、光沢があって「本物のさわのはな」なのである。 F食味 光沢があって粘りが強く、硬さがやや柔らかいものが美味しい<。整粒歩合(注13)75%以上、精米粗蛋白含有率(注14)7.5%以下、精米アミロース含有率(注15)21%以下など、これが美味しいコメの要件といわれている。山形農試の分析では、「さわのはな」のタンパク含有率は6%台、アミロース含有率は19%台、玄米チッソ含有率は1.2%台とコシヒカリとはぼ同しで、食味のよいことが理解される。また、腹白粒(注16)や心白粒(注17)の混入した「さわのはな」の食味は、ササニシキに劣らず良いことが認められているなど、「さわのはな」の良食味は理化学的にも証明されている。 B搗精歩合 搗精歩合(注18)は、玄米から胚芽、糠層を除いた自米の重量比で、搗精歩合の高いコメがいわゆる「うまみ」のあるコメとして評価されている。 (単位:%)
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